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第二話

-短編小説-『視線の先で』

-探してしまう自分-

翌日から、彼の通勤は変わった。

時間は同じ。路線も同じ。
それなのに、無意識に車両を選んでいる。

混雑の中で、視線だけが先に動く。

座席。足元。背筋の通った影。

いないと分かっているのに、目が探す。


――偶然だ。

――ただ印象に残っただけ。

そう言い聞かせても、心は納得しない。

彼女の声が、耳の奥に残っている。
低く、短く、断定的な一言。

あれは注意でも警告でもない。判断だった。

ホームで立ち止まり、人の流れに紛れる。

自分がどんな顔をしているのか、分からない。

恥ずかしさが遅れてくるたび、胸の奥が熱を持つ。

電車に乗る。

視線を落とす。

それでも、足先の動きに反応してしまう自分がいる。

気づかれていた、という事実―。

見られていた、という前提―。

それを否定しない自分に、静かな驚きがあった。

駅に着くと、歩く速度が少しだけ遅くなる。

振り返らない。

でも、背後の気配を期待してしまう。

当然、何も起こらない。

香水の残り香も、声もない。

それでも、彼は理解する。

探しているのは、彼女そのものではない。

あの一瞬で与えられた立場。

見抜かれ、決められた感覚。

自分は、選ぶ側でいたはずだ。
なのに今は、選ばれた痕跡を探している。


電車のドアが閉まる音が、やけに大きく聞こえた。

彼は息を整え、前を向く。

――次に会ったら。

その続きを考えそうになって、思考を止めた。

止められるうちは、まだ大丈夫だと、どこかで信じながら。

つづく。


著者名:一色 密
編集部|日向ネオン

※本作は連作小説です。
次話は近日公開予定。

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